筆と鍵穴

読書のマイムはおやめになって

PCS変換ゲーム

(今回の記事はPC版でご覧ください)

 

オフシーズン、皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。オフシーズンとはいっても今月下旬にはGPSアサインが発表されるらしいので、フィギュアスケートファンの皆様にも既に臨戦態勢の方は多いのかもしれません。

ところで先日、以下のような記事が話題になっていましたね。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019060600997&g=spo

北京オリンピック後のルール大幅改定の案として、現在のSPとFSではなく「テクニカル」と「フリー」という分け方に変更し、前者ではTES:PCS=2:1、後者ではTES:PCS=1:2となるような得点配分が行われた競技形態へ移行することがISUで議論されているようです。これが以前にも提案されたうえで却下されたものであること、いちメディアの記事であり公式発表には程遠いものであることなどを踏まえると特に反応を示すべきものでもないのかもしれませんが、個人的な興味でいろいろと考察を並べてみました。

 

今回気になったのは、記事の「ジャンプは難易度と出来栄えによって得点差が明確になるが、演技構成点は特に上位争いではそれほど差が開かない」の部分です。プロトコル上、リザルト上ではこの指摘はほぼ正論であるといえます。しかしその事実が競技形態自体の変更を促すものであるかは、やはり疑問の残るポイントです。

以下においてフィギュアスケートの採点についての言及がありますが、いずれも採点に異議を唱えるものや陰謀論に加担するものでなく、ジャッジは絶対的であるという採点競技の原則から外れないものであることをここで確認しておきます。

それでは初めていきましょう。まず2018-2019シーズンのGPS6戦ぶんの女子シングルのデータをグラフにまとめました。ご覧の通り、SP・FSともにPCSでの得点の開きはTESに比べてかなり小さくなっています。これではたしかに表彰台争いにおいてPCSが大きな影響力を持っているとはみなし難いです。というかそもそもGPSに出場できる選手ともなれば一定以上の能力は有しているはずであり差をつけにくいのはある程度しかたがない、というのが現状のようです。

 

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そこでなんとなく強引にPCSに影響力を持たせてみることにしました。

データ内のPCS最大値(ここでは SP:フィンランド大会のアリーナ・ザギトワ(ロシア)、FS:フィンランド大会のアリーナ・ザギトワ(ロシア))をa、PCS最小値(ここでは SP:フランス大会のマチルダ・アルゴットソン(スウェーデン)、FS:フランス大会のリー・セルナ(フランス))をbとおき、各選手のPCSに対して以下の数式を用い値を変換します。

$$\frac{25\{(各選手のPCS)-\frac{-3a+8b}{5}\}}{a-b} \tag{SP}$$
$$\frac{50\{(各選手のPCS)-\frac{-3a+8b}{5}\}}{a-b} \tag{FS}$$

…といわれてこれを初見で解読できる方はあまり多くないように思いますが、要は先ほどのPCSの分布の形を変えずに、TESの開き具合と照らし合わせて、便宜的にSPでは最大値が40と最小値が15、FSでは最大値が80と最小値が30となるように各選手のPCSを変換しています。グラフにするとわかりやすいと思うので以下に添付しておきます。

 
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どうでしょう?全体的に縦軸方向に引き伸ばされていい感じに点差がつきそうな気がしますよね。実際にこの変換後のPCSを利用して、6戦ぶんの各選手のスコアを計算し直したものが以下です。(クリックし拡大してご覧ください)

 

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(2018-2019 GPSアメリカ大会)
 

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(2018-2019 GPSカナダ大会)
 

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(2018-2019 GPSフィンランド大会)
 

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(2018-2019 GPS日本大会)
 

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(2018-2019 GPSロシア大会)
 

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(2018-2019 GPSフランス大会)

 

思ったより順位の変動が起こるんですね…! あまり統計を扱うのが得意ではないので漠然と「上位勢には特に動きが見られないのではないか」などと思いつつ作業を進めたのですが、見事に5大会で表彰台のメンバーに入れ替わりが見られ、うち2大会では優勝者まで替わるという事実に驚かされました。宮原さんの強さが光っていたり、シーズンを通してエレメンツに不安があったものの表現力には定評のあるメドベや真凜ちゃんを救済するように働いていたりなどおもしろいですね。このデータだとおそらくPCS8割5分強あたりに、変換後のPCSがもとのPCSより高くなるものと低くなるものの境界があるようですが、この計算方法で高くなる選手たちはさすがですねと感心してみたり。非常に興味深いです。

もちろんこの計算方法では全データが集まって初めて各々の変換後の値が定まるため、実践的に利用するのは不可能です。しかし目安にはなります。少なくとも今回の結果から、

PCSの相場を全大会に通用させるのではなく、たとえば「ISU主催の大会のシニアクラスではこのような基準にする」など、相場の適応範囲の限定を行い、PCSが満点近くつくものから4割弱(SPで15、FSで30程度)しかつかないものまでのバラつきを出すことで、ある程度PCSを「勝敗を分ける要素」として働かせることができる

ということがわかります。つまり、まだ現行の競技形態上に技術と芸術の価値の両立具合が向上する可能性が残されているということです。逆にこの程度の実践のないまま改定案のような変化を求めても意図通りの結果を得ることは難しいのではないかと個人的には思っています。まぁ改定理由は他にもたくさんあるらしいのですが。

 

以上ふとした興味から始めてみた考察でしたが、作業を通してそれなりに楽しさを感じたので、これを深めるなり別角度から考察するなりしてみようかなと思います。とりあえずチャンピオンシップのデータを加えたものやジュニア大会のデータなども作ってみましょうかね。次回があるかわかりませんがそのときはまたよろしくおねがいします。

 

※データの誤りなどはご指摘ください。

 

ありがとうございました。