筆と鍵穴

読書のマイムはおやめになって

2018-2019 お気に入りプログラムランキング(FS)

前回の続編です。よろしくお願いします。

 

10位 山隈太一朗「ラ・ラ・ランド

全日本選手権男子シングルFSで最も魅力的に感じたプログラムです。男子が滑る「ラ・ラ・ランド」としてとても素敵な編曲ですよね。「Another Day of Sun」を最後に持ってきてChSqでしっかり踊るというのは、女子のプログラムではストーリーを知っている人間からするとやや残念に見えがちですが、彼のプログラムには本当に惹かれました。国際試合に出ている男子シングルの選手にもこのChSqを見習ってほしいです。普段は男子シングルをほとんど見ないのですが、このプログラムのおかげで関心が蘇ってきました。

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9位 エリザヴェータ・トゥクタミシェワ「You Don't Love Me」

自分でもなぜこのプログラムをお気に入りに入賞させたのかわからない部分が多いです。ボクは「PCSが高く出るだろう」と思わせる演技を露骨に好む傾向があるのですがそこにはまぁ合致してないですし、かといって3Aの質が高いわけでもないですし…。でもやはりいちばん大きなポイントとして、彼女がプログラムをノーミスで滑り切りかつ自分らしさを表現してくれていることですかね。二度オリンピックを逃したこともあってか、今季の彼女はある意味選手とは別種の存在として試合に出ているような印象を受けました。達観している…感じですかね。わかりません。強いていえばSPランキングでネイサンについて書いたことと同様に「試合の枠組みを超えて」という感じに近い雰囲気を感じました。

そういえば3S+2A+SEQの一連の流れが好きでした。個人的にはジャンプシークエンス自体に否定的なのですが彼女のは別ですね。

これからも芯から自分らしく滑っている彼女を楽しみたいです。

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8位 アリョーナ・コストルナヤ「ロミオとジュリエット

なんといってもクワドなしであの2人と戦い抜いたことへの畏怖でしょう。フィギュアスケートは総合力の競技なのだと改めて感じさせられました。

ロミオとジュリエット」は所謂定番の曲であり過去にも様々なプログラムが生み出されてきているため、観客に感銘を与えるプログラムとなるにはそれなりの工夫を要するはずです。しかしこのプログラムのアプローチは、よくわからないセリフ部分以外ほぼ正反対だったのではないでしょうか。一般的なエレメンツの種類や配置で構成されたものを、ひとつひとつ抜かりなく最大限の完成度でこなしていく、いわば「正攻法的な曲を正攻法的に完成させた」プログラムとなりました。それをジュニアの選手が遂行したということに驚きます。また演技の最初と最後で同じポーズを繰り返すというエテリあるある手法も、ここでは良い効果になっていると思います。2014-2015シーズンのリプニツカヤの同曲プログラム(中国杯のみ)を思い出しました。

個人的には彼女のクワドの導入などは急がれていないと思うので、周囲の選手の状況に関係なく今まで通り練習できることを祈っています。スケーティングは非常に美しいので苦手なStSqが改善されればもうイデアですね。

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7位 ネイサン・チェン「Land of All」

王者のプログラムですね…。決して濃い内容ではありません。しかし、この曲調と彼の動作の特徴を踏まえると、あまりトランジションを入れずに伸びやかさをもたせることで彼の演技の美しさを見せることに成功したように感じます。そのうえで終盤のChSqの激しさが際立っている点も好きです。とはいえ彼のクワドの安定感やSPでの余裕も考慮するとFSでもっと凄まじい演技ができるのではないかという気もします。

なんだかんだでボクは彼に惚れているんでしょうね。いつも知らぬ間に応援している気がします。もちろん来季も。

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6位 アレクサンドラ・トゥルソワ「The Fifth Element」

非公認ですが FS 176.90 (ChSqなし, ボーナスあり) を叩き出した驚異のプログラム。突出した技術力は転じて芸術になり得ることを思い知らされました。ということでもう書くことがなくなってしまいました。それにしてもドゥダコフって何者なんでしょうね…?ドーピング検査項目にドゥダコフが追加されないか心配でなりません。

まぁとにかくトゥルソワはシニア女子シングルを破壊すること。いいですね?

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5位 宮原知子「Invierno Porteno」

彼女の演技の芸術性はどこから生じるのかといわれると、その主たるものはやはり緩急の付け方の巧妙さでしょう。それを顕著に出すことができるといった意味では、この曲はとても良い選択だったと思います。

このプログラムの魅力として強調しておきたいのはCCoSpの挟み方です。2015-2016シーズンの「ファイアーダンス」も同じような構造になっているのですが、プログラムの導入部でジャンプを跳んだ後、一度緩急の「緩」に切り替えてからスピンを経由してプログラムの本編へ入っていきます。彼女のスピンの美しさでなくてはこの部分を滑らかな接続部として働かせることはできません。またLSpやFCSpでもいけません。この曲では、多彩にポジションが切り替わるCCoSpだからこそこれが成立しています。そして同時に「ファイアーダンス」のLSpの選択の賢明さにも気づきます。彼女のプログラムの完成度は漠然としたものではなく、このような丁寧な構想に基づいている部分もあるのではと感じさせられました。

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4位 羽生結弦「Origin」

実質「プルシェンコに捧ぐ」である、プルオタによるプルオタのための作品で、わざわざロシアまで見せに行ったのに当の本人がいないというある意味不運なプログラムでしたね…。世界選手権であそこまで復活させたのはさすが羽生結弦だと感じさせられましたが、それでも本人比ではかなり浮ついた演技だったと思います。

それでも4Lo後のイーグルでの重厚感の表現や振付のひとつひとつのポジションの美しさなど、「SEIMEI」を超えた点は多く含まれていたと思います。そもそも演技の最初のポーズからなかなか芸術的ですよね。回転体の美しさを思わせます。ところで先ほど触れた「重厚感」についてですが、これまでの彼の演技といえば澄み渡るイメージや技術力に裏打ちされた身軽さのようなものが印象的でした。しかしオリンピック2連覇を達成して演技の自由度を高めていこうという流れの中でこの「重厚感」に着手しました。これは個人的にはとても重要なことだと思っています。そして羽生結弦をもってしても1シーズンでは表現しきれなかったと。これが今後の彼の変化にどう影響を与えるのか見守りたいです。

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3位 アンナ・シェルバコワ「序奏とロンド・カプリチオーソ」

ロシアチャンピオンによる名作です。とはいうものの公開当初はここまで好評になると思われていなかったらしく、仕上げてきたことがシェルバコワの能力を示しているなどと言われてグレイヘンガウスもかわいそうなものです。あの男のことはどうでもいいのですが。

このプログラムに関しては感嘆させられたというよりは自分の嗜好に合っているという表現のほうが正確なので、見どころの解説はお詳しい方々にお任せするとしてただの感想を述べていこうと思います。まず4Lzの着氷の伸びがすばらしいですね。男子シングル選手はこの完成度を下回ったら導入しないでいいと思います。また、彼女にどれだけダンスのセンスがあるかは存じ上げないのですが、少なくともボクの好みの身のこなしをしてくれるので安直に虜になってしまっています。音感もエテリ三銃士の中ではいちばん高い気がしますね。強いて技術的なことをいえばジャンプの出方がことごとく工夫されていて好きです。最近気づいたのですが、どうも着氷後チェンジエッジの入るジャンプを好むようで、彼女の3F+3Loなんかは振付の関係上必然的にチェンジエッジする形になっていて好きです。あとソロ3Lz着氷時の右手の具合も好きです。衣装もすごく素敵ですよね。今季の全プログラムでいちばん好きかもしれません。ジュニアのプログラムなのでロシアナショナル出場時はシニア用の長さに時間調整していますが、そちらのほうが好きです。より長く見ていられるので当たり前といえば当たり前ですけどね。ハハ。好きです。

来季はもちろんロシア女子シングル1番手としてシニアに移行することになりますし、ボクとしても最高のシーズンを送ってほしいわけですね。シェルバコワとグレイヘンガウスの組み合わせは最強との話を少し癪に思いながらも、こればかりはあの男に期待して彼女の躍進を信じようと思います。

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2位 坂本花織「ピアノ・レッスン

今季の話題作ですね。彼女のスケーターとしての地位を確立させたプログラムとなりました。何よりも驚きなのが、彼女がPCSでトップ選手に並ぶだけでなくPCSで差をつけられる段階まで達したということです。スケーティングの伸び、ジャンプ前後のトランジションなど、彼女のいちばんの強みであるジャンプの大きさ以外の部分もいつの間にか武器になっていました。

リショーさんの振付をモノにした、という表現が最も適切だと思いますが、その振付自体にも注目したいところです。昨季の「アメリ」同様に概して三部構成になっていて、

演技開始~StSq前 → StSq~3F+2T → CCoSp~演技終了

と場面が展開していきます。だからなんだと言われてしまえばそれまでですが、ひとつひとつの表現に具体性を持たせやすい、またそれが確実に表現されていることを観客側も受け取りやすいように感じました。特にStSqの1音目の取り方なんかが好みです。あ、ボクに音感がないことがバレましたね。Twitterのフォロワーさんなら音階を的確に書き並べるところなんでしょうが当ブログではそれが一切ございません。

これまで世界の様々なプログラムで物議を醸してきたSE(Sound Effect)に関しても、このプログラムにおいてはアリだと思います。カモメの鳴き声や波の音が、ある意味プログラム中盤の象徴として働いているのでなかなか良いのではないでしょうか。一方でChSqでの観客の手拍子、あれはナシですね…。まぁあくまで個人的な意見ではありますが、「ピアノ・レッスン」のプログラムに対して手拍子をするのって「紙ナプキンを綺麗に畳むことで料理に満足できなかったことを示す」のと似た行為のように感じます。炎上しそうなのでこれ以上は控えますが。

彼女はリショーさんとすごく相性が良いようなので来季も期待しています。

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1位 紀平梨花「A Beautiful Storm」

 今季の My Best Program です。

これほどまでに人間の「才能」に恐怖を抱いたことはありません。というかなぜ昨季のあいだに気づかなかったのかわかりません。全エレメンツ・全トランジションが音楽表現になっているといって過言でないです。そもそもシニアデビューのシーズンにこの抽象的なテーマを与えるというのは酷なはずなんです。それなのにこの曲に対して最適解を示してしまったとなるともはや人間だとは思えません。

まず彼女のいちばんの特徴といえば音感ですよね。音を全て拾いにいくという意識だけでなく、その拾い方が従来の日本人スケーターにはない異種のものです。腕で取る部分、脚で取る部分、全身で取る部分が多彩で切り替えがすごく滑らかに感じました。特にCCoSpからStSqへの流れで顕著に表れていますし、スピンの中でもポジションチェンジを合わせることを忘れないなど、とにかく音に忠実です。

ジャンプの配置というか散りばめ方も絶妙です。ただしジャンプを音楽表現の一環として成立するよう配置できるというのは、ジャンプ自体をある程度余裕をもって跳べる技術があってこそのものだと思うので、まずその点でさすがだと思わされますね…。このプログラムでは3A+3T、3Aのふたつの大技もかなり跳びやすく置かれているいるように感じました。というのも、3Aのミスが目立ったSPではいわゆる音ハメを一点で狙い過ぎてるがためにミスを誘発しているのではないかと思うのです。対してこちらでは、狙うタイミングに多少幅をもたせていることが成功率を向上させたのではないでしょうか。

そして最後に目を見張るものといえばプログラムの洗練です。昨シーズンの「カンフーピアノ」もJGPSでの演技と全日本選手権での演技ではまるで別人ですし、今シーズンもその力が大きく発揮されたように感じました。

SPランキングで宮原さんのプログラムを「フィギュアスケートのあるべき姿」としましたが、これに敢えて呼応させるなら「フィギュアスケートの新しいあり方」を提示しているといえば適切でしょうか。何にせよ、彼女が恐るべき才能の塊であることに間違いはないのです。

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FSランキングは以上です。

ブログを開設して初めての記事でしたがいかがだったでしょうか?前回の冒頭でも触れましたが、今季はあまり観戦の時間を設けられなかったので、来季こそは充実したフィギュアスケート観戦を繰り広げようと思っております。

ありがとうございました。